スプレッドが2倍になるとEAの成績はどこまで落ちるのか — 感度分析の手順
目次
結論:耐えられるかどうかは「1トレードあたりいくら抜くEAか」でほぼ決まる
スプレッドが2倍になったとき、あるEAはほとんど成績が変わらず、別のEAは黒字から赤字に転落します。この差は戦略の優劣ではなく、1トレードあたりの平均獲得幅に対して、増えたコストがどれだけの比率を占めるかという単純な割り算で決まります。
平均10pips抜くEAのスプレッドが1pipsから2pipsになれば、増えたコストは平均利益の10%です。平均3pips抜くEAなら33%が消えます。同じ「スプレッド2倍」でも、削られる量はまったく違います。
私たちがEAを公開する前に必ず回しているのが、このスプレッド感度分析です。ここでは考え方と、あなた自身の手元で実行できる手順を書きます。
仕組み:劣化額は「増えたスプレッド × 取引回数」でしかない
スプレッド悪化がもたらす損失の総額は、驚くほど単純な式です。
劣化額 ≒ 増えたスプレッド(通貨換算) × 総取引回数
つまり効いてくる変数は2つだけ。取引回数と、1回あたりの利幅です。ここから、どのタイプが崩れやすいかが見えてきます。
| 戦略タイプ | 取引回数 | 平均利幅 | スプレッド2倍の影響 |
|---|---|---|---|
| 短期・薄利多売(M1〜M15スキャルピング) | 非常に多い | 小さい | 極めて大きい。黒字/赤字が反転しうる |
| 中期トレンドフォロー(H1〜H4) | 中程度 | 中〜大 | 限定的。年率が数%削られる程度のことが多い |
| 長期ブレイクアウト(D1) | 少ない | 大きい | ほぼ無視できる |
具体例で言えば、GOLD KING v6(XAUUSD M1)は検証7.5年で2834取引、GOLD NEURON(XAUUSD M15)は7年で765取引です。これに対しBITCOIN GLACIER(BTCUSD D1)は8年で28取引、BITCOIN COIL(BTCUSD H4)は8年で57取引しかありません。同じスプレッド拡大でも、2834回払うのと28回払うのとでは総額が100倍違うわけです。
さらに厄介なのは、勝率の高い薄利型EAほどこの影響を受けやすいという点です。GOLD PIVOT(XAUUSD M1)は勝率90.6%、GOLD KING v6は勝率83.1%ですが、高勝率は多くの場合「小さく何度も取る」設計から来ています。小さく取る利益がコスト増に食われれば、勝率そのものが下がります。勝ちトレードが同値決済に、同値決済が負けトレードに変わっていく形で崩れます。
一方、MEGAMAX DON EURJPY(EURJPY H1、勝率25.2%、571取引)のようなトレンドフォロー型は、そもそも勝率を利幅で埋める設計です。少数の大きな勝ちが収益の柱なので、エントリー時のコストが多少増えてもリターン構造は壊れにくい。勝率が低いことが、ここではむしろ防御になります。
手順:MT5でスプレッドストレステストを回す
考え方が分かったら、実際に数字で確かめます。難しい作業ではありません。
1. 基準テストを取る
まずストラテジーテスターを「実ティックに基づく全ティック」モデルで回し、基準となる結果を保存します。このとき必ず記録するのは、純益・PF・総取引回数・平均勝ちトレード額の4つ。特に平均勝ちトレードは、後の見積もりの分母になります。
2. スプレッドを固定値で段階的に上げる
テスターのスプレッド設定を「現在値」から固定値に変え、想定値・1.5倍・2倍・3倍の4段階で回します。ゴールドやビットコインなど変動の大きい銘柄は、3倍まで見ておいて損はありません。指標発表時や早朝は、平時の数倍まで開くことが実際にあります。
3. PFではなく「PFの落ち方」を見る
見るべきは各段階の絶対値ではなく傾きです。2倍でPFがほとんど動かないEAは、コストに対して十分な利幅を持っています。2倍でPFが1.0付近まで落ちるEAは、現在の黒字がスプレッド環境に依存しているということです。それ自体は必ずしも欠陥ではありませんが、条件の良い口座でしか動かせないEAだと認識する必要があります。
4. 手数料も足す
ECN口座は生スプレッドが狭い代わりに往復手数料がかかります。テスターの手数料欄に実際の値を入れないと、スプレッドだけを見て「狭いから有利」と誤判断します。
5. 使う口座の実測スプレッドを取る
想定値は自分で測ります。稼働予定の口座に監視スクリプトを入れ、平日1週間分の平均と最大を記録してください。業者選びの観点はFX業者比較にまとめています。EAをこれから設置する場合の手順はEA設定方法を参照してください。
限界:この分析で分からないこと
正直に書いておきます。スプレッドストレステストは、実運用コストの一部しか再現できません。
- スリッページは別問題です。 テスターの固定スプレッドは、約定の遅れや滑りを含みません。実際のコスト悪化は、スプレッド拡大と滑りが同時に起きる形で来ます。
- 拡大のタイミングを再現できません。 固定値テストは全期間に均等にコストを乗せますが、現実のスプレッドは値動きの激しい局面で選択的に開きます。EAが動きやすい局面と重なるなら、実害は固定値テストより大きくなります。この差を私たちは定量化できていません。
- 銘柄仕様の違いは別途確認が必要です。 業者ごとの契約サイズ、最小ストップレベル、スワップは、スプレッドとは独立に成績を変えます。
- 過去のスプレッド環境は将来を保証しません。 流動性の構造が変われば、平時の水準そのものが動きます。
ですから、このテストは「安全なEAを見つける道具」ではなく、**「どのくらいコスト環境に依存しているかを知る道具」**として使ってください。各EAの実測値は全EAの実測ランキングで公開しています。
まとめ
- スプレッド悪化の影響は「増えたスプレッド × 取引回数」でほぼ決まる。戦略の良し悪しではなく設計の問題。
- 取引回数が多く1回の利幅が小さいEAほど崩れやすい。GOLD KING v6の2834取引とBITCOIN GLACIERの28取引では、同じ拡大でも総コストの桁が違う。
- 高勝率EAは薄利型であることが多く、コスト増で勝率自体が下がりうる。
- トレンドフォロー型は勝率が低い代わりに利幅で稼ぐため、相対的に耐性がある。
- 手順は「基準テスト → 1.5倍・2倍・3倍 → PFの傾きを見る → 手数料も入れる → 実口座のスプレッドを実測」。
- ただしスリッページ、拡大タイミング、銘柄仕様の差は再現できない。テストは万能ではなく、依存度を測る道具にすぎない。
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