EAの平均保有時間から戦略の正体を見抜く — レポートで確認する手順と限界
先に結論:保有時間は「自己申告されない戦略説明書」
EAの販売ページには「トレンドフォロー」「押し目買い」といった説明が書かれています。しかし、その説明が実際のロジックと一致している保証はありません。私たちが他社EAを検証するときに真っ先に見るのは、説明文ではなく1トレードあたりの保有時間です。
保有時間は嘘をつきません。エントリー時刻と決済時刻の差は、EAが実際に何をしたかの記録そのものだからです。そして保有時間が決まれば、そのEAがどのコストに殺されやすいかもほぼ決まります。数分で決済するEAはスプレッドとスリッページに、数日持ち越すEAはスワップと週末ギャップに脆い。これは戦略の良し悪しではなく、構造上そうなるという話です。
なぜ保有時間で脆弱性が推定できるのか
理由はシンプルで、利益幅とコストの比率が保有時間でほぼ決まるからです。
保有時間が短いEAは、1回あたりの狙う値幅も小さくなります。値幅が小さいほど、スプレッドやスリッページが利益に占める割合が跳ね上がります。バックテストで機能していた戦略が、実運用のスプレッド拡大だけで赤字に転落するのは、たいていこのタイプです。
逆に保有時間が長いEAは、1回の値幅が大きいためコスト耐性は高くなります。その代わり、ポジションを持っている時間そのものがリスクになります。指標発表、週末ギャップ、スワップの累積。さらに取引回数が減るので、同じ検証年数でもサンプル数が少なくなり、統計的な信頼度が落ちます。
| 平均保有時間の目安 | 推定される戦略型 | 特に効いてくる弱点 |
|---|---|---|
| 数分〜1時間未満 | スキャルピング型 | スプレッド拡大、スリッページ、約定拒否、ブローカー差 |
| 数時間〜1日程度 | デイトレ/短期トレンド型 | 経済指標、セッション切替時の急変 |
| 数日〜数週間 | スイング型 | 週末ギャップ、スワップ、サンプル数不足 |
MT5レポートのどこを見るか
MT5のストラテジーテスターのサマリーには「平均保有時間」という項目はありません。自分で出す必要があります。
- テスター内の「取引」タブを開き、右クリック→レポート(またはCSV)で全約定を書き出す。
- エントリー時刻と決済時刻をペアにして差分を取る。 ポジションIDでひも付けると分割決済も追えます。
- 平均だけでなく、中央値と最大値、そしてヒストグラムを見る。 ここが本題です。
- 勝ちトレードと負けトレードで分けて集計する。
4番が最も情報量があります。勝ちは短く、負けは極端に長いという分布が出たら、含み損を放置して戻りを待つ設計が入っている可能性が高い。この形は勝率が高く出やすい一方で、1回の負けで積み上げを失いやすい構造です。
逆に負けが短く、勝ちが長いなら、損切りが機能してトレンドを伸ばす設計と推定できます。この型は勝率が50%を割ることも珍しくありませんが、PFが1.0を超えていれば筋は通っています。
実測データと突き合わせる
私たちのEAでも、時間軸と取引数の関係は素直に出ます。MEGAMAX DONCHIAN(USDJPY H1)は検証9.4年でPF=1.55、勝率=34.55%、631取引。勝率が低くPFが成立するタイプで、これは負けを短く切って勝ちを伸ばす分布と整合します。
一方 BITCOIN GLACIER(BTCUSD D1)は検証8年でPF=2.4、勝率=57.1%、28取引にとどまります。数字は良く見えますが、取引数がこれだけ少ないと、平均保有時間も含めて統計として扱うには弱い。私たちはこれを「良いEA」ではなく「まだ判断材料が足りないEA」として扱っています。
高勝率側も見ておきます。GOLD PIVOT(XAUUSD M1)は検証4.5年でPF=1.58、勝率=90.6%、有効DD=49%。勝率90.6%に対してPFが1.58にとどまるということは、1回の負けが多数の勝ちを相殺しているということです。保有時間の分布を取ると、この非対称性がどこで発生しているかが見えます。数字の並びだけでなく、時間軸で確認する意味はここにあります。各EAの実測値は実測ランキング、個別の検証詳細はMEGAMAX DONCHIANやBITCOIN GLACIERのページにまとめています。
限界と、分からないこと
正直に書いておきます。
- 保有時間から分かるのは「型」であって「優劣」ではありません。 短期だから危険、長期だから安全ということはありません。
- バックテストの保有時間は実運用と一致しません。 約定遅延、リクオート、スプレッド拡大による決済条件の変化で、実際はズレます。特に分足のスキャル型でズレが大きくなります。
- 平均値は外れ値に強く引っ張られます。 1回の塩漬けが平均を大きく動かすので、必ず中央値と分布を併せて見てください。
- ナンピン・グリッド系は保有時間の解釈が別枠になります。 建玉が積み増されるため、単純な差分では実態を表しません。
- 保有時間からエントリーロジックそのものは復元できません。 分かるのは出口の設計と、リスクの所在までです。
つまりこれは、EAを絞り込むためのフィルターであって、合格判定の道具ではありません。より基礎的な確認項目はノウハウ記事側にまとめています。
まとめ
- 平均保有時間は、EAの説明文より信頼できる「実際の挙動」の記録である。
- 短期型はスプレッドとスリッページ、長期型はギャップ・スワップ・サンプル数不足に脆い。
- MT5では取引履歴を書き出し、平均・中央値・分布を自分で出す必要がある。
- 勝ちトレードと負けトレードで保有時間を分けて集計するのが最も情報量が多い。負けだけ極端に長ければ、損切りを先送りする設計を疑う。
- 保有時間で分かるのは戦略の型とリスクの所在まで。優劣も、実運用での再現性も、これだけでは判断できない。
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